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荒れ果てたとまではいかないが、手入れが行き届いているとは到底思えない庭園を抜け、辿り着いた古びた屋敷に思わず眉を寄せた。 ルルーシュが事前に連絡したというが出迎えもなく、念のためマリアンヌから預かって来たという鍵で門扉を開けると、中を確認し屋敷の主を呼んでまいりますと、メイドが二人屋敷内へと姿を消した。 中の安全確認がされるまで、ルルーシュはスザクと共に車で待機だ。 魔女を名乗るマリアンヌの友人。 嫌な予感しかしないとスザクは眉を寄せ、今まで以上にルルーシュから離れないように注意しなければと考えていると、メイド長が扉から姿を現した。 開け放たれた扉の奥からは、シャツ一枚のだらしない姿で、大あくびをしている少女が姿を現した。目が覚めるような美しい黄緑色の長い髪を揺らし、神秘的な黄金の瞳をこちらに向けている少女は、そのなめらかで白い肌を惜しげもなく晒し、明らかに男性用と解る白いシャツにスリッパだけという、どう考えても人を出迎えるには不適切な姿をしていた。その事を何とも思っていないのか、平然とした顔で仁王立ちしている。 「私がこの館の主で、マリアンヌとシャルルの古い友人、C.C.だ。ここに滞在するのは構わないが、私に供物をささげる事は忘れるなよ」 偉そうにふんぞり返りながら言い放たれた言葉に、ジノと護衛兵達、そして車内にいるスザクは目を丸くした。 「皇帝陛下と皇妃様を呼び捨てにするなど、しかもそれはルルーシュ殿下をお迎えする恰好か!皇族侮辱罪で処罰する!」 怒りで肩を震わせ剣を抜こうとしたジノに、C.C.は馬鹿にするような笑みを向けた。 「処罰?私をか?シャルルとマリアンヌに首を切られるぞお前」 解雇という意味ではなく、処刑という意味でだが。 「まだ言うか!」 なんて無礼な女だ! 「ルルーシュ、お前からも何か言ってやれ」 C.C.がジノから視線を移した先には、車を降りたルルーシュがいた。 「久しぶりだな魔女。母さんがたまには遊びに来いと言っていたぞ」 本来ならば、誰よりも腹を立てるはずのルルーシュは、何事もなかったかのようにこの無礼な少女に話しかけていた。 「ああ、そうだな。たまには遊びに行ってやってもいい。ところで、持ってきたんだろうな」 「持ってきたら冷めるだろう、後で俺が用意してやる」 「ほほう!?お前がか!?珍しいこともあるものだな。だが、いい心がけだなルルーシュ。手を抜かずに作れよ」 「ああ、俺が腕によりをかけて作ってやるから楽しみにしていろ」 「え?あの、殿下が、この・・・女性の食事をお作りになられるのですか!?」 「流石にこんな田舎ではデリバリーを頼むわけにもいかない。ならばこの魔女の舌を満足させるため、おれが手ずから作るしかないだろう。久しぶりだが問題はない」 「安心しろ、お前の腕はそうそう落ちはしない」 「それはどうも。それより、さっさとそこをどいて中に入れろ」 「ああそうだったな、お前足を痛めてたんだった。忘れてたよ」 「思いだしてくれて何よりだ。それよりも魔女、お前はいい加減羞恥心というものを知るべきだ。そんなはしたない格好で出てくる奴があるか」 「いいじゃないか別に。この私に手を出そうなどという色ボケしたガキがいるなら、やってみればいい。魔女を怒らせれば、死ぬより辛い目にあうことを、覚悟したうえでな?」 そういいながら少女はにやりと口元をゆがめた。その年齢に不釣り合いな老齢なまなざしと、その笑み。まさに魔女の笑みといっていいだろう。 無能、無能と言われている王子だが、この手の嘘や冗談を口にすることは今まで一度たりともなかった。ましてや皇族である皇帝と皇妃、そして自身の名を呼び捨てにし、ぞんざいな態度をとる相手に対し、この黒の王子が怒りもせず受け入れるなど・・・ということは、この少女は、見た目こそまだ15・6の少女だが、マリアンヌ皇妃の古い友人ということは、見た目以上に年を重ねているのかもしれない。皇族に対してこのような態度をとっても許されるほど、強い力を持っているのかもしれない。今まで出会ったことのない、未知の存在。 その真価を目にするのは・・・このすぐあとのことだった。 |